過疎化とは?過疎化問題の原因と過疎化対策の成功事例
高度成長期以降、地方の過疎化は着実に進んでおり、過疎地域では人口減少とともに高齢化も大きな問題となっています。国もさまざまな施策を打ち出していますが、全国の過疎地域は増え続けているのが実情です。
このような状況に危機感を持ち、過疎化対策に取り組んでいる自治体も数多くあり、地域の特性を活かした取り組みがなされています。
この記事では、過疎化の原因や過疎化に至る流れを解説し、過疎化対策の成功事例を紹介します。
▶監修・解説:北川哲也氏
補助金や許認可の手続きを専門とする行政書士事務所Link-Up代表 北川哲也氏。
2011年に29歳で開業し7年間個人事務所として中小企業向け行政書士サービスを展開。
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過疎化とは?
「過疎化」とは、その地域の人口が減少した結果、その地域での日常生活や生産活動が「一定レベルを維持することが困難」になった状態を指した言葉です。
また、過疎になってしまう主な原因は人口減少ですが、人口が流出して過疎化に至ってしまうまでには共通の流れがあります。過疎化対策を考える際には、この流れをあらかじめ理解しておくと良いでしょう。
過疎化の定義
過疎地域とは人口減少や高齢化によって自治体が財政難となり、住民の生活に支障が出ている地域のことです。
「過疎地域自立促進特別措置法」(通称:過疎法)に基づいて、過疎地域に指定される要件(人口要件と財政力要件)が定められています。
この要件の内容によって、過疎地域は以下のように指定されます。
● 全部過疎
● 一部過疎
● みなし過疎
各要件についての規定は、総務省の「過疎関係市町村都道府県別分布図」をご参照ください。
また、総務省が発表した「令和3年度版 過疎対策の現況」によると、全国1,719市町村のうち半数を超える885市町村が過疎地域に指定されています。
過疎化に至るまでの流れ
暮らしている地域が過疎化へと至るまでには、以下のような一定の流れがあります。
1.高度経済成長期に伴い、若者を中心に人口が都市部へ流出
2.地域の働き手が減少し、自治体の税収が減少
3.自治体の財政悪化により、行政サービスの質と量が低下
4.人口減少により商業施設などの売上も減少し、雇用環境が悪化
5.仕事を求めて若者が都市部へ流出するため、さらに人口減少が加速
昭和の高度成長期以降、地方ではこのような悪循環が続いている地域が多くあり、人口減少に歯止めがかからない状況が続いています。
過疎化対策に取り組むには、このような過疎化に至る流れを理解してから、それぞれの地域で「いまどのような問題が起きているのか」を考える必要があります。
過疎化が進む原因と背景
過疎化が進んでしまう最大の原因は「人口が減少すること」です。また、地域から人口が減少する要因として、昨今の社会的背景も無視することはできません。
ここでは、人口減少についてだけではなく、社会的背景による過疎化の原因についても説明します。
人口の減少
地域が過疎化してしまう主な原因は、都市部へと人口が流出してしまうことによる「人口減少」です。高度成長期のような激しい人口流出は減りましたが、それでも依然として若者を中心に人口の流出は増えています。
また、若年層が都市部へと流出してしまうことで出生数も減り、ますます高齢者の割合が大きくなっている地域が増えているのも実情です。このような地域では、人口流出だけでなく高齢者が亡くなることによる人口減少が進んでいきます。
現在、過疎地域では人口の流出だけでなく、出生率低下や高齢者の死亡数増加による「人口の自然減」も、大きな問題となっています。
産業構造の変化
戦後、経済の著しい発展に伴って産業構造が変化してきたことも、過疎化が進んだ社会的な背景として挙げられます。
日本の経済が発展・成熟していくに従って、農林漁業から製造業へ産業がシフトし、さらに製造業から小売業・サービス業・情報産業へとシフトしていきました。
この産業構造変化の流れにより、地方で農林漁業を営む人たちが減り、より安定した収入が見込める製造業・小売業・サービス業・情報産業などへ職を求める人が増えています。
そのため、安定した職を求める人たちが、地方から都市部へと移り住んでいきます。
交通インフラの影響
交通の利便性が低いという問題も、過疎化が進んでいく要因に挙げられます。
たとえば、過疎地域では以下のことが問題になります。
● 電車やバスの本数が少ない
● 車がないと移動できない
● 道路整備がされていない
● 空港が近くにない
これらは過疎地域における交通事情の一例ですが、都市部に比べると利便性が低いと言わざるを得ません。
このような交通の不便さは日常生活にも直結するため、交通インフラが整備されている都市部へと生活拠点を移す人が増えていきます。
しかし、過疎地域では財政面でも規模が縮小しているため、交通インフラへの投資ができない状況です。
都市部と地方の魅力格差
地方にも良いところはたくさんありますが、都市部には商業施設や娯楽施設も多く、流行やトレンドに触れやすいこともあり、とくに若者にとっては魅力的だと感じる部分が多いようです。
さらに、都市部には多種多様な数多くの企業があり、求人数・業種も多いことなどから、働くという点でも魅力があります。
また、都市部では生活インフラやインターネット環境も整備されているため、生活のしやすさという点でも地方より魅力を感じる人が多いです。
子育て世代の人たちにとっては、習い事や進学先など「学びの選択肢が多い」ことも、地方より都市部での生活を選択する理由に挙げられます。地方からの人口流出が減らない要因として、このような魅力格差も理由の1つとなるでしょう。
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過疎化が進むことによる影響
過疎化が進むと「地域住民同士が相互扶助しながら生活する」という集落機能が低下していきます。
また、集落機能の低下だけでなく、経済的な問題、環境問題なども、過疎化の影響により引き起こされます。
参考:過疎地域等における今後の集落対策のあり方に関する中間とりまとめ(総務省)
一次産業の衰退や経済の停滞
過疎地域の多くは農林漁業といった一次産業を主としていますが、過疎化が進むことによって以下の問題が出てきます。
● 若者が都市部へと流出してしまい、新たな担い手(後継者)がいない
● 一次産業に従事していた人の高齢化が進む
これらの問題により、過疎地域では一次産業が徐々に衰退していきます。
また、人口が減少することで地域経済も縮小してしまい、経済活動自体が停滞します。
人口減少の加速と高齢化
若年層の人口流出が増え続けたことにより、過疎地域では65歳以上の人口比率が増加の一途を辿っています。
総務省の報告によると、令和2年の過疎地域における65歳以上の人口構成比率は「40.2% 」となっており、着実に高齢化が進んでいるというのが実情です。
また、高齢化が進むことにより自然死も増加するため、若年層の流出と相まって人口減少がさらに加速していきます。
公共サービスの質低下やコミュニティの衰退
労働人口の減少や地域経済の縮小により、過疎地域では自治体の税収も減少します。その結果、インフラ整備や医療福祉などの公共サービスの質が低下していきます。
さらに過疎化が進むと、公共サービスを維持すること自体が難しくなります。
また、過疎化や高齢化が進んでいる地域では、世代を超えた交流すらも難しくなり、地域コミュニティの新しい担い手が減少しています。
災害発生時には地域の安全・安心の確保に重要な役割となる地域コミュニティが衰退することは、地域社会にとって大きな問題です。
空き家の増加と環境問題
過疎地域では高齢者の一人暮らしも多く、所有者が亡くなるとそのまま空き家となるケースがほとんどです。そのため、過疎化が進んでいくことにより、空き家も増加していきます。
また、山林や耕作地の所有者が高齢化していくと、手入れが行き届かなくなり、害虫や害獣による被害も多くなります。所有者が亡くなれば、そのまま放置されることも少なくありません。
山林や耕作地が適切に管理されなくなると、山の保水機能が衰えて水害の原因にもなる重大な問題です。
都市部への供給減少
過疎地域のほとんどは一次産業を担っていますが、過疎化が進むと一次産業の担い手も減るため、農産物や海産物の生産量が減少していきます。その結果、都市部への食料の供給量も減ってしまいます。
過疎化が進んで日本国内の食料自給率が低下していくと、海外からの輸入に頼る傾向がさらに強くなるでしょう。
国による過疎化への主な施策
過疎対策については、地方自治体だけでなく国からも様々な施策が打ち出されています。ここでは、以下の3つの施策について説明します。
● 地域おこし協力隊
● 都市部から地方への移住者を増やす取り組み
● 特別措置法による支援対策
いずれの施策も予算が割り振られており、過疎化への重要な施策と位置付けられています。
地域おこし協力隊
地域おこし協力隊とは、都市部から過疎地域に住民票を異動して、一定期間その地域に居住しながら「地域協力活動」を通じて定住・定着を図る取り組みです。
地域協力活動としては、主に以下のことが挙げられます。
● 地域ブランドや地場産品の開発・販売・PR
● 農林水産業への従事
● 住民の生活支援・地域コミュニティの維持
具体的な活動内容・条件・待遇などは各自治体により異なりますが、地域おこし協力隊員の活動経費として「1人あたり最大480万円」の財政措置が取られています。
また、任期終了後の隊員の定住率は、およそ「65%」となっています。
令和4年度で6,447名の協力隊員が全国各地で活動中です。総務省では令和8年度までに「隊員数10,000人とする」ことを目標としています。
都市部から地方への移住者を増やす取り組み
地域おこし協力隊以外にも、移住者や定住者を増やすための取り組みとして、以下のことが実施されています。
● ローカル10,000プロジェクト:雇用吸収力の大きい地域密着型の事業を支援
● 分散型エネルギーインフラプロジェクト:地域エネルギー事業の立ち上げ支援
● 関係人口:地域と関わる人たちを活用して地域の担い手を確保
● 定住自立圏構想の推進:地域住民の生活に必要な機能を確保
● 地域の国際化の推進:外国人を招待して国際交流や国際協力の推進
これらの取り組みの詳細については「総務省:令和5年度地域力創造グループ施策について」をご参照ください。
特別措置法による支援対策
旧法が令和3年3月末で期限を迎えたため、新たに「過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法」が制定されました。
この法律による支援措置には、主に以下のものがあります。
● 国税の特例・地方税の減収補填措置
● 都道府県代行(基幹道路・公共下水道)
● 配慮措置
● 過疎対策事業債
● 国庫補助率のかさ上げ
このように、財政・行政・税制といった面から様々な支援措置が講じられています。
特別措置法は、地域の持続的発展を図ることで、人材の確保や育成、雇用機会の拡充、住民福祉の向上、地域格差の是正、美しく風格ある国土の形成を目的としています。
参考:総務省「過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法 概要」
観光による過疎化対策の事例
地方には風光明媚な観光地がたくさんあります。ここでは、地域資源を使った観光事業により過疎化対策に成功した事例を紹介します。
岐阜県高山市|伝統文化や自然を体験
高山市では、江戸時代の面影を残す歴史的な街並み、日本三大美祭にも数えられる高山祭、温泉などの地域資源を活かすために、官民一体となって国内外で観光客誘致を展開しました。
その結果、国内だけでなく国外からも観光客数が増加しました。さらに「外国人が一人歩きできるまち」を目指して、案内看板、パンフレット、ホームページの多言語化、無線LAN設置などを実施しています。
また、中部北陸圏の官民が連携した「昇龍道プロジェクト」や「北陸・飛騨・信州3つ星街道」など、近隣の自治体とも連携した取り組みがされています。
奈良県明日香村|空き家の活用
明日香村では、歴史的な文化財を数多く保有しているものの、宿泊施設が圧倒的に不足していました。しかも、歴史的風土保存地区であるため、建築制限が厳しく新築が難しい状況でした。
そのため、空き家を利用した宿泊施設の運営を始めました。クラウドファンディングにより1,500万円の資金調達にも成功しています。ファンド説明会などを通じて、明日香村の魅力をアピールして宿泊施設の開業に繋げました。
再開発・環境整備による過疎化対策の事例
都市再開発や環境整備も、地域活性化に大きな役割を果たします。ここでは、再開発や都市整備により過疎化対策に成功した事例を紹介します。
秋田県大仙市|都市機能の集約
大仙市では市街地再開発事業に伴い、JR大曲駅前に地域中核病院、認定こども園などを集約した結果、新たな人の流れの創出に成功しました。
さらに、創出した人の流れを商店街に呼び込むため、有志により街づくりのための新会社が設立され、歴史ある建物をリノベーションして店舗や交流施設として再利用しています。
また、地元商店の店主と地元デザイナーが協力して、独自ブランド商品を開発しています。
新潟県見附市|歩行空間の整備
見附市では高齢化による課題を直視して、市民が歩きたくなるような環境整備をしました。具体的には、ウォーキングコースの整備、健康遊具の設置などです。他にも、市民グループが中心となって「社会参加(外出)できる場づくり 」をしています。
このように、普段の生活で運動量を増やす街づくり、外出したくなる環境づくりをした結果、医療費の削減にも繋がっています。
また、健康運動教室を開始して体力年齢の若返り効果を測定したところ、開始30ヶ月で体力年齢が約15歳も若返りました。
雇用創出による過疎化対策の事例
地方に雇用を生み出すことで、地域経済はより活性化していきます。ここでは、新しい雇用の創出により過疎化対策に成功した事例を紹介します。
福井県内の各地|企業見学ツアー
福井県では学生の地方就職を高めることを目的として、福井大学、自治体、地元企業などで密接なネットワークを構築しました。
個別・合同の企業説明会はもちろん、福井県内の企業見学バスツアーも実施し、学生と地元中小企業との交流を促進する取り組みもしています。
こうした様々な取り組みの結果、県内就職率38.0%を達成しました。しかも、離職率は低いレベルを維持しています。
徳島県神山町|ベンチャー企業誘致
神山町では県の主導により、高速ブロードバンド環境の整備、オフィス開設・運営費用の支援などを実施しました。さらに、NPO法人グリーンバレーが主体となり、サテライトオフィスの誘致を推進しました。
その結果、IT企業やデザイン会社の進出が相次ぎ、町外から移住してくる人も増加しています。
また、空き店舗を利用した飲食店の開業も増え、地元農家の生産物を積極的に使っているため、地域の基幹産業である農業も活性化されつつあります。
林業・農業による過疎化対策の事例
農林漁業など一次産業は、日本にとっても大切な産業の1つです。ここでは、林業や農業の活性化により過疎化対策に成功した事例を紹介します。
岐阜県東白川村|木材の販路拡大
東白川村では、林業従事者や工務店と連携しつつ、地元産「高級ひのき」を使った注文住宅を安価に販売できるシステムを構築しました。
このシステムでは、村が開設したホームページ上で村役場が代理人となり、住宅建築の設計・見積もりから建築・施工までをワンストップ処理できます。
独自システムを構築した結果、新築住宅の大量受注に成功しており、それに伴って林業や建築業の収入も増加しています。
長野県川上村|最新農業技術の導入
川上村では、鮮度保持技術の導入や、栽培の技術革新、農家への気象情報・市況情報の提供などにより、高品質のまま消費地に速達できるシステムを確立しました。
その結果、日本一のレタス生産地となり、農家の平均収入も2,500万円を超えるまでに成長しました。さらに、後継者の定着により出生率も全国トップクラスになっています。
こうした安定した農業基盤のもと、介護予防などに取り組んだ結果、1人あたりの年間医療費も抑制されるようになっています。
まちづくりによる過疎化対策の事例
より多くの地域外の人たちに地域と関わってもらうことも、地域活性化には大切なことです。ここでは、まちづくりにより過疎化対策をしている事例を紹介します。
島根県邑南町|関係人口を招く
邑南町では、新しい観光戦略として「関係人口」の活用を目指しています。関係人口とは、その地域に定住はしないものの、地域が抱える課題解決に協力してくれる人たちのことです。
2018年に設立されたNPO法人「江の川鐵道」では、全国の鉄道愛好家たちが、トロッコの運行、施設修繕、枕木交換、草刈りなどの作業に関わっています。
このような関係人口と呼ばれる人たちと地域住民による協働は、地域活性化として注目されている取り組みの1つです。
まとめ:過疎化問題は深刻だが様々な施策や成功例もある
日本では、過疎地域の増加、過疎化の進行といったことが大きな問題となっています。
しかし、出生率低下、人口減少、高齢化などを解消しようと取り組んでいる自治体も増えており、国も過疎化に対する法整備をして様々な施策を打ち出しています。
過疎地域を活性化するには、まちづくりや観光、雇用創出、関係人口の活用、農林漁業の振興など、様々な取り組み方法があり、国や政府の支援を受けることも可能です。
また、全国には地域活性化に取り組んだ数多くの成功事例があります。これから自治体で過疎化対策に取り組んでいく際には、成功事例はとても参考になるでしょう。
▶監修・解説:北川哲也氏
補助金や許認可の手続きを専門とする行政書士事務所Link-Up代表 北川哲也氏。
2011年に29歳で開業し7年間個人事務所として中小企業向け行政書士サービスを展開。2018年春に株式会社Link-Upを立ち上げ、士業サービスでカバーしきれないコンサルティングや顧問サービスをスタート。公益社団法人茅ヶ崎青年会議所の2021年度理事長や認定NPO法人NPOサポートちがさき参画など活動多数。