地方自治体の主要課題と地域課題の見つけ方!課題解決策も紹介
これまでの人口増加から人口減少に転じて10年以上が経過し、地方自治体には様々な課題が山積みされています。
こうした課題について、解決の糸口すら見つけられない自治体もあるようです。一方で、地道に課題解決に取り組んでいる自治体もあります。
そこで本記事では、自治体が直面している課題、課題の見つけ方、課題解決のアプローチ方法、自治体の取り組み事例などを解説します。
▶監修・解説:北川哲也氏
補助金や許認可の手続きを専門とする行政書士事務所Link-Up代表 北川哲也氏。
2011年に29歳で開業し7年間個人事務所として中小企業向け行政書士サービスを展開。
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地方自治体が直面する主要な課題とは?
現在、地方自治体は様々な課題に直面しており、これらの課題を把握することが地域活性化や地方創生の第一歩となります。
以下は、全国の自治体における主要な課題点です。
● 人口減少と少子高齢化による地域経済への影響
● インフラ老朽化と財政難
● デジタル技術導入やDX化の遅れ
● 住民とのコミュニケーション不足
● 環境問題と持続可能なまちづくり
● 官民連携による新しいソリューション導入
● 自然災害への備えと防災対策
これらの課題に対して、官民連携による新しいソリューションの導入が進められている自治体もあり、早急な対応が求められています。地域が持つ資源を有効活用しながら、課題解決に取り組む姿勢も大切になるでしょう。
人口減少と少子高齢化による地域経済への影響
人口減少と人口構造の変化は、地方自治体の財政基盤を大きく揺るがしています。特に、生産年齢人口(15~64歳)の減少は、地方自治体の税収を直接的に低下させ、行政サービスの質の維持を困難にしています。
さらに、高齢化の進行は地域経済に二重の負担をもたらしています。一方では労働力不足により地域産業の生産性が低下し、他方では高齢者向けの医療・介護サービスの需要が増加することで財政支出が膨らんでいます。
若年層の都市部への流出も地域経済の活力を奪う要因です。東京都の所得格差は若者の地方離れを加速させ、地域の担い手不足という悪循環を生み出しています。
インフラ老朽化と財政難
高度経済成長期に整備された社会インフラの老朽化が、地方自治体の深刻な課題となっています。特に深刻なのが、維持・更新に必要な財源の確保です。地方自治体のインフラ維持管理費は1993年度の約11.5兆円をピークに減少を続け、2011年度以降はピーク時の約半分の予算で対応せざるを得ない状況です。
この財源不足は、公共施設の統廃合やサービス縮小という形で住民生活にも影響を及ぼしています。全国では「早期に補修が必要」「緊急に補修が必要」と判断されながら、補修が行われていないインフラも多く点在しています。
また、老朽化したインフラは災害に対して特に脆弱です。近年増加する豪雨や地震などの自然災害に対して、十分な対策を講じられないまま危険な状態にあるインフラも少なくありません。
デジタル技術導入やDX化の遅れ
デジタル技術の導入とDX化は、地方自治体の業務効率化と住民サービス向上において重要な課題となっています。基幹業務システムのクラウド化率はまだ低く、多くの自治体でデジタル化が十分に進んでいないのが実情です。
特に深刻なのが、IT人材の不足です。民間企業との人材獲得競争が激化する中、自治体での人材確保は一層困難になると考えられます。この人材不足という点も、自治体がDX推進に苦戦している要因の1つです。
また、多くの自治体では依然として紙の書類や押印を前提とした業務プロセスが残されています。この状況が業務効率化の大きな障壁となっており、特に、住民票の発行や各種許認可申請など、住民との接点となる業務での電子化の遅れが顕著です。
一方で、デジタル技術の活用による成功事例も着実に増えています。
住民とのコミュニケーション不足
地方自治体における住民とのコミュニケーション不足は、行政サービスの質と住民満足度に大きな影響を与える重要な課題となっています。多くの自治体が「住民ニーズの把握が不十分」と認識しており、この課題への対応が急務となっています。
特に深刻なのが、行政施策と住民ニーズの乖離です。近年、自治体が重要だと考える施策と、住民が求めるサービスの間に大きなギャップが存在することが明らかになりました。例えば、子育て支援策において、自治体が提供する保育サービスと、共働き世帯が実際に必要としているサービスの内容が一致していないケースが多く報告されています。
この課題に対し、デジタル技術を活用した住民との対話促進も進んでいます。AIチャットボットによる24時間対応の問い合わせ窓口や、SNSを活用した情報発信、オンラインアンケートシステムなど、多様なコミュニケーションチャネルの整備が進められています。
環境問題と持続可能なまちづくり
地方自治体において「環境問題と持続可能なまちづくり」は喫緊の課題となっており、解決に向けた具体的な取り組みが求められています。その中でも特に重要な課題の一つが、再生可能エネルギーの導入です。例えば、福島県会津若松市では、地域新電力会社を設立し、太陽光発電と蓄電システムを組み合わせたエネルギーの地産地消モデルを確立しました。
これは地域経済の活性化にも寄与していますが、他自治体でも同様のモデルを展開するためには、技術や初期コスト、地域の合意形成といった課題をクリアする必要があります。
さらに、スマートシティ構想の推進においても課題が山積しています。従来のコンクリート主体のインフラ整備から自然環境を活用した持続可能な都市づくりへの転換が進む中、横浜市が展開する「グリーンインフラ戦略」では、雨水管理と緑地保全を組み合わせることで、都市型水害の軽減と生物多様性の保全を同時に実現しています。
しかし、多くの自治体では、このような自然を活用したインフラ整備に必要な資金や専門知識、地域住民との協働といった課題が立ちはだかっています。
また、気候変動に伴う災害リスクの増大は、各自治体にとって解決すべき最優先課題の一つです。多くの自治体が気象観測システムのデジタル化やAIを活用した災害予測モデルの導入を進めていますが、これらの技術の導入には財政面での制約や運用体制の構築といった課題が存在します。
また、省エネルギー対策として公共施設へのLED照明の導入や建物の断熱改修に取り組む自治体が増えていますが、これらの施策を広範囲に展開するためには、国や地域との連携が不可欠です。
官民連携による新しいソリューション導入
現在、官民連携による新規プロジェクトを実施または計画中の自治体が増加していますが、成功に至るには多くの障壁があります。
一方で、多くの自治体が直面する課題として、地域特性の理解不足やパートナー選定の難しさが挙げられます。自治体側が地域のニーズや資源を適切に把握できなければ、民間企業と連携しても効果的なソリューションを導入することは困難です。
また、プロジェクト開始後も、事業が長期的に継続可能であるための収益モデルの構築や、関係者間での透明性と信頼関係の維持が求められます。
さらに、官民連携を円滑に進めるためには、法制度や規制面の制約をどのように克服するかも大きな課題です。自治体が民間企業と連携する際には、双方の目標や運営方針のすり合わせが必要であり、この調整に時間とコストがかかることも少なくありません。
自然災害への備えと防災対策
近年の気候変動に伴い、自然災害の激甚化が進む中、地方自治体における防災・減災対策の重要性が増しています。気象庁の報告によると、2023年の豪雨災害による被害額は過去10年間で3番目の大きさを記録し、特に地方部での被害が深刻化しています。
防災インフラの整備状況を見ると、市町村によって大きな格差が存在します。土砂災害警戒区域内にある要配慮者利用施設の避難確保計画の策定がなされていない自治体もあり、早急な対応が求められています。
地域コミュニティの防災力強化も重要な課題です。自主防災組織の組織率は高くなっていますが、実際に訓練を実施している組織はそれほど多くありません。この状況を改善するため、多くの自治体がスマートフォンアプリを活用した防災訓練や、オンライン防災講座の開催など、より参加しやすい形での防災教育を展開しています。
一方で、デジタル技術を活用した新しい防災対策も始まっています。実際に、AIを活用した災害予測システム導入、ドローンと3Dマッピング技術を組み合わせた災害時の被害状況調査システム導入などが実施されています。
各自治体が地域の課題を見つける方法
地方自治体が効果的に地域課題を発見し解決するためには、体系的なアプローチが必要です。しかし、多くの自治体が課題発見のプロセスに苦慮しています。
自治体が自地域の課題を見つける方法として、主に以下の方法が挙げられます。
● 住民アンケートの活用
● 他地域との比較調査
● 住民参加型のワークショップ
● データ分析による課題発見と予測
● 住民との対話促進ツールの導入
● 地域コミュニティとの協働
このように、デジタル技術の活用と多様なステークホルダーとの連携により、より精度の高い課題発見が可能になっています。ただし、発見された課題を効果的に解決するためには、住民との合意形成や実行可能な施策の立案など、さらなるステップが必要となります。
住民アンケートの活用
地方自治体における住民アンケートの活用は、効果的な政策立案と住民サービスの向上において重要な役割を果たしています。デジタル技術を活用したアンケート手法を導入している自治体も増加しており、住民の声をより広く集められるようになっています。
特に注目すべきは、スマートフォンアプリやウェブフォームを活用したオンラインアンケートの普及です。従来の紙ベースのアンケートと比較して、回収率が上がった自治体もあります。
また、定期的なアンケート実施により、地域課題の変化を継続的に把握することが可能になっています。定期的にオンラインアンケートを実施し、住民ニーズの変化をリアルタイムで把握することで、子育て支援策や高齢者サービスの迅速な見直しが可能です。
他地域との比較調査
他地域との比較調査は、自治体が抱える課題を客観的に把握し、効果的な解決策を見出すための重要な手法です。
地理的・気候的条件が類似した自治体との比較や分析はとても有効で、気候や地形、産業構造など、自地域と似ている他の自治体と比較することで、自地域特有の課題や改善点を浮き彫りにできます。
比較や分析をするときは、総務省の統計データや自治体の報告書なども活用しながら、客観的視点で課題を分析します。
このような比較・分析により、自地域の特性を活かした独自の解決策を見出すことが可能です。この際、他の地域で成功した取り組みなども参考にし、自分たちの自治体でも応用できるか検討するのも良いでしょう。
住民参加型のワークショップ
住民参加型のワークショップは、地域課題を発見し解決策を見出すための効果的な手法として注目を集めています。特に効果的なのが、住民、専門家、行政職員という異なる立場の参加者が一堂に会して行うワークショップです。
例えば、神奈川県鎌倉市では定期的にワークショップを開催し、高齢化対策や観光振興などの課題について、多様な視点からの意見交換を実現しています。参加者それぞれの経験や知識を活かした議論により、従来の行政主導では気づかなかった課題や解決策が見出されています。
また、机上の議論だけでなく、実際に現場に赴くことが重要です。そうすることで、想定していなかった問題点を発見でき、より実効性の高い施策立案につながるでしょう。
ワークショップの形式も進化しています。従来の対面式に加え、オンラインツールを活用したハイブリッド型のワークショップも増加しています。このような場で意見交換することで、より住民との合意形成がしやすくなります。
データ分析による課題発見と予測
データ分析による地域課題の発見と予測は、地方自治体の政策立案において重要性を増しています。現在、AIやビッグデータの活用を積極的に推進している自治体もあります。
また、AI技術を活用することで、人口動態や経済指標などのデータを分析して、地域特有の課題発見、将来予測が可能です。
リアルタイムデータの活用も進んでいます。交通量、公共施設のエネルギー使用量などをリアルタイムで分析することで、即時に対応すべき課題を特定できます。
このようなデータ分析の取り組みは、単なる現状分析だけでなく、将来予測に基づく予防的な政策立案を可能にします。ただし、データの収集・分析には個人情報保護の観点からの慎重な対応も必要です。
住民との対話促進ツールの導入
デジタル技術の進展により、地方自治体における住民との対話手法も大きく変化しています。特に注目されているのが、AIチャットボットを活用した住民対応です。
従来は電話や窓口での対応が必要だった問い合わせをチャットボットで解決できるようになり、住民サービスの向上と職員の業務効率化を同時に実現しています。チャットポットは行政サービスへの不満に即時対応できるだけでなく、それらをデータとして蓄積できるメリットもあります。
また、モバイルアプリを活用した住民フィードバックの収集も広がっています。道路の破損や街灯の不具合などを住民がスマートフォンで撮影して報告できるアプリを導入することで、GPSデータと連動することで場所の特定が容易になり、修繕対応のスピードが大幅に向上させられます。
地域コミュニティとの協働
地域コミュニティとの協働も、地方自治体が直面する課題を解決する上で重要なポイントです。特に、地域コミュニティリーダーとの効果的な協力体制の構築は、課題解決に欠かせません。
地域コミュニティのリーダーと協力することで、現場レベルで感じている問題点、住民からのニーズなどを吸い上げられます。道路の補修や防犯灯の設置など、住民の生活に直結する問題の早期発見・解決にもつながるでしょう。
また、ボランティア活動や地域イベントを通じた情報収集も効果的です。例えば、ボランティアの市民に地域の課題をスマートフォンで投稿してもらうことで、効率的な課題解決を実現できます。
自治会や町内会との定期的な対話も重要性を増しています。従来の対面での会議に加え、オンラインでの意見交換も可能にすることで、若い世代の参加が増加し、より多様な意見の収集ができるでしょう。
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地方自治体の課題解決に向けた具体的なアプローチ
地方自治体が直面する課題の解決に向けて、近年では革新的なアプローチが展開されています。特に、デジタル技術の活用、住民参加型の取り組みなどが注目されています。
ここでは、自治体の課題解決に向けた主なアプローチ方法を解説します。
● デジタル技術による業務効率化と住民サービス向上
● 官民連携による地域活性化と雇用創出
● 持続可能なまちづくりに向けた環境対策
● 人口減少対策としての移住促進と定住支援
● 地域コミュニティ再生と社会的孤立対策
● 教育・人材育成による地域活性化
● 防災・減災対策としてのデジタル技術活用
これらのアプローチを軸にしつつ、各地域特有の課題に対する解決方法を見つけられるかもポイントです。画一的なアプローチを実施するのではなく、地域性や住民の意識などもしっかり把握しつつ、各自治体が独自の方法で課題解決に取り組むと良いでしょう。
デジタル技術による業務効率化と住民サービス向上
デジタル技術を活用した業務効率化と住民サービスの向上は、地方自治体の課題解決における重要な取り組みです。RPAやAIによって定型業務を自動化することで、職員は政策立案や住民との対話など、より創造的な業務に時間を割けるようになるでしょう。
24時間365日対応可能なオンラインの行政窓口を設置することで、窓口業務の効率化が図れるだけでなく、住民の満足度も高まります。
さらに、ビッグデータとAIを組み合わせたAIチャットボットなどのサービスは、問い合わせ対応を自動化でき、より複雑な相談にも丁寧に対応できる体制を構築する手助けになるでしょう。
官民連携による地域活性化と雇用創出
官民連携による地域活性化と雇用創出は、地方自治体の課題解決における重要な取り組みとして注目されています。特に注目されているのが、サテライトオフィスの誘致です。地方にIT企業などのサテライトオフィスを誘致して、地元の雇用を生み出している自治体が増えてきています。
地域資源を活用した観光振興も成果を上げています。古民家や自然など地域特有の資源を観光資源として活用すれば、インバウンドを含めた観光客を増やして、地域経済の活性化につなげられるでしょう。
さらに、地域独自の産業振興策も有効です。地元企業との連携だけでなく、地元以外の外部企業と連携して新しいビジネスモデルを構築するなどの方法があります。
持続可能なまちづくりに向けた環境対策
地方自治体における持続可能なまちづくりに向けた環境対策は、気候変動への対応と地域経済の活性化を両立させる重要な取り組みです。
地域特性を活かした再生可能エネルギーの導入は、特に注目されている施策です。太陽光や風力など、各地域の特性に応じた再生エネルギーの導入を進めることで、地域経済にも貢献できるでしょう。
また、気候変動に伴う自然災害への対応も急務となっています。近年の自然災害は発生規模が大きくなってきており、それに対応できるだけのインフラ整備が求められています。
産業廃棄物の削減やリサイクル推進も、持続可能な社会作りを目指すための大切なアプローチです。AIを活用したごみ分別アプリを導入している自治体もあります。
人口減少対策としての移住促進と定住支援
人口減少対策としての移住促進と定住支援は、地方自治体にとって最重要課題の一つとなっています。コロナ禍以降、テレワークの普及により地方移住への関心が高まっています。
若者や子育て世帯向けに移住支援金や住宅補助金を提供し、地方への定住を促進する取り組みをする自治体も増えてきており、空き家を活用した移住受け入れ制度を整えている自治体もあります。こうした自治体では移住希望者と空き家所有者のマッチングをサポートする取り組みも進んでいます。
また、テレワーク環境の整備も重要な要素となっています。インフラ整備はもちろんですが、テレワーカー向けの住宅補助制度も開始して、都市部からの移住者受け入れ体制を強化する自治体も増えてきています。
地域コミュニティ再生と社会的孤立対策
地方では65歳以上の高齢者の社会的孤立が深刻化しており、高齢者向けの福祉サービスやコミュニティ活動支援プログラムなどを通じて、地域コミュニティの再生に取り組んでいる自治体もあります。
高齢者と若年層が交流できる場の提供や、デジタル技術を活用したアプリの導入などにより、新しい形でのコミュニティ支援も始まっています。
地域ボランティア活動の活性化も重要な要素です。ボランティアの育成から活動支援まで一貫したサポートをする自治体もあり、こうした活動を通じて地域全体で課題解決に取り組む機運が高まっています。
さらに、高齢者の経験やスキルを活かして、地域の学校での特別授業や、企業での技術指導などを実施することで、高齢者の活躍の場を創出するだけでなく、生きがいづくりと地域貢献の両立を実現できるでしょう。
教育・人材育成による地域活性化
地元の大学や専門学校との連携により、高度な技術や知識を身につけた人材を育成して、さらに地域産業に貢献する取り組みを行っている自治体もあります。
また、学生が主体となって地域課題に取り組むプロジェクトも活発化しています。高知県大方高校では、地域の課題解決型学習プログラムを導入し、生徒たちが地元企業や行政と協力して特産品開発や観光振興に取り組んでいます。
社会人のスキルアップ支援も重要な取り組みです。地域企業の従業員向けにAIやデータ分析のリカレント教育プログラムを提供して、新しいスキル習得を支援している自治体もあります。こうした支援により、地域内でキャリアアップする機会を提供できます。
防災・減災対策としてのデジタル技術活用
近年の気候変動に伴う自然災害の激甚化を受け、地方自治体におけるデジタル技術を活用した防災・減災対策の重要性が高まっています。多くの自治体では、防災分野でのデジタル技術活用を重点施策として位置づけており、様々な取り組みが進められています。
中でも、AIとIoTセンサーを組み合わせた災害予測システムが注目されており、災害時の迅速な対応を可能にするだけでなく、防災計画の精度向上にも役立ちます。
また、避難所運営のデジタル化も進んでいます。QRコードを活用した避難者管理システムを導入して、避難者の受付から物資の配布まで一元管理を実現している自治体もあります。さらに、各避難所の収容状況や必要物資の情報をリアルタイムで共有することで、効率的な支援物資の配送が可能です。
地方自治体が抱える課題への取り組み事例
現在、多くの地方自治体で課題解決への取り組みが実施されつつあります。こうした取り組み事例を参考にすることで、自分たちの地域の施策にも活かすことができるでしょう。
ここでは、以下の自治体による課題解決の事例を紹介します。
● 埼玉県さいたま市
● 群馬県前橋市
● 静岡県藤枝市
● 大阪府大阪市
● 北海道札幌市
● 長野県伊那市
● 兵庫県加古川市
デジタル技術の活用、住民参加の促進、これらを組み合わせることで、より効果的な課題解決が可能になっています。特に注目すべきは、単なる意見収集に留まらず、具体的な事業化や実装まで視野に入れた取り組みが増えている点です。
埼玉県さいたま市
さいたま市では、住民の声を効果的に集める手段として「不満買取センター」を活用しています。
このサービスの特徴は、住民がWebやアプリを通じて日常生活で感じる不満を投稿すると、その内容に応じて1〜10ポイント(1ポイント=1円相当)が付与される仕組みです。貯まったポイントはショッピングギフト券と交換できるため、住民の投稿モチベーションを高める効果があります。
投稿された不満は、言語解析AIにより分析され、行政サービスの改善に活用できる形でレポート化されます。アンケートでは集まりにくい本音の声を収集できる点が特徴で、レポートには回答者の属性(性別、年代、地域、家族構成等)も含まれています。
群馬県前橋市
前橋市では、公共交通の利便性向上を目指し、「MaeMaaS」と呼ばれる革新的なモビリティサービスを展開しています。このサービスは、市内の鉄道、路線バス、デマンドバス、シェアサイクルなど、多様な交通手段をシームレスに連携させ、利用者の移動をトータルでサポートする仕組みとなっています。
特に注目すべき機能として、市内3エリアで運行しているデマンド交通の予約を一括して行えることや、 アプリ内で市内公共交通が1日乗り放題となるデジタルフリーパスの購入が可能な点が挙げられます。また、新型コロナウイルス対策として、地点別・時間帯別の混雑状況を確認できる機能も搭載されています。
導入後の効果として、利用者満足度調査では約85%が「移動が便利になった」と回答しており、特に高齢者や子育て世代からの評価が高く、通院や買い物など日常的な外出機会の増加にもつながっています。
静岡県藤枝市
藤枝市では、災害時の迅速かつ一元的な情報把握を実現するため、先進的な水位・雨量観測システムを構築・運用しています。
このシステムの特徴は、市内の河川に水位計、公共施設に雨量計を設置し、超音波や電波(レーダー)により観測したデータをインターネット上でリアルタイムに公開している点です。具体的には、市内21地点(水位計17河川19地点、雨量計2地点)に計測器を設置し、LPWAを活用することで、場所や時間に関係なく、住民が情報端末を通じて水位・雨量データを確認できる環境を整備しています。
導入にあたっては、産学官連携団体「藤枝ICTコンソーシアム」を設立し、ソフトバンク株式会社と包括連携協定を締結。市内のほぼ全域をカバーするLPWA通信網を敷設しました。また、観測計器の設置場所は、国や県が設置している既存の水位計・雨量計の配置を考慮しつつ、住民の避難行動に必要な地点を選定しています。
大阪府大阪市
大阪市では、住民の利便性向上と行政手続きの効率化を目指し、オンライン申請ポータルサイトの構築を進めています。
このシステムの特徴は、2025年度までに段階的にオンライン化を拡大する計画を立てており、2021年度に500手続き、2023年度に1,000手続き、2025年度には2,000手続きのオンライン化を目標としています。本人確認にはマイナンバーカードを活用し、手数料支払いはクレジットカードによるオンライン決済に対応。また、事業者向け手続きについてはGビズIDにも対応しています。
導入にあたっては、まず「行政手続きの棚卸し」と「電子申請システムの機能調査」を実施しました。行政手続きの棚卸しでは、半年をかけてすべての手続きについて、根拠法令、申請受付から交付までの事務処理フロー、利用する業務システム、申請対象者、押印・決済の必要性、処理時間などの業務特性を詳細に調査。また、電子申請システムの機能調査では、次世代の電子申請システムに必要な機能要件を整理しました。
北海道札幌市
札幌市では、観光客誘致の課題解決に向けて、データ分析に基づく革新的なアプローチを展開しています。
このサービスの特徴は、人流データや決済情報など様々なデータを収集・分析し、観光客の行動パターンを詳細に把握している点です。具体的には、誰がどこにいるのか、どこから来て次にどこへ行くのか、何をしているのかなどの動向を分析し、それに基づいて新たな誘客プロモーションを構築しています。
成功事例として、韓国人観光客向けの商品展開があります。あるショップでは、他店舗でお菓子が好評だというデータ分析結果を受けて、従来の化粧品中心の品揃えにお菓子を追加し、売上向上につなげました。
また、台湾人観光客が市内の特定の公園に多く滞在しているというデータから調査を進めたところ、クロスカントリースキー体験が目的であることが判明し、これを新たな観光資源としてプロモーションに活用しています。
長野県伊那市
伊那市では、特に中山間地域における医療環境の課題に対応するため、移動診療車を活用した遠隔診療サービスを展開しています。
医療機器を搭載した専用車両に看護師が同乗し、患者宅を訪問してかかりつけ医とのオンライン診療を実施する仕組みです。通信環境や診察環境が整った車内で看護師の補助のもと診療を受けられるため、一般的なオンライン診療より安全性と質の高さを確保しています。
この取り組みにより、医師は訪問診療のための移動時間を短縮でき、患者と家族は通院や待ち時間の負担を軽減できています。
2020年6月から保険診療を開始し、2020年11月からは遠隔服薬指導も開始しました。2022年2月時点では、市内8つの医療機関が1台を共有して事業に参画しています。
兵庫県加古川市
加古川市では、市民の安全・安心に対するニーズ、特に子どもの安全確保への要望に応えるため、ICTを活用した見守りサービスを展開しています。この背景には、人口千人あたりの刑法犯認知件数が県下自治体の中で常にワースト上位という課題がありました。
このサービスでは、小学校の通学路や学校周辺を中心にビーコンタグ(BLEタグ)検知器を設置し、各民間事業者がビーコンタグとスマートフォンアプリを有償で提供しています。
見守り対象者であるの子どもや認知症の恐れのある高齢者がビーコンタグを持って見守りカメラ付近を通過すると、カメラに内蔵された検知器が情報を取得し、保護者や家族にリアルタイムで位置情報履歴を通知する仕組みとなっています。
利用者は初期費用として2,420円から2,620円、月額利用料として220円から515円を支払い、ビーコンタグの電池は約1年間利用可能です。
人口減少社会における地方自治体の今後の在り方
人口減少社会において、地方自治体には大きな変革が求められています。自治体が単独で施策をするだけでなく、周囲の複数の自治体が連携して行政サービスの効率化を図ることも重要です。
専門職員の共同採用や相互派遣により、小規模自治体でも高度な行政サービスを提供できます。自治体が連携することにより、コスト削減やサービスの質向上も期待できるでしょう。さらに、近年では、民間企業で培った専門的な知識や経験を持つ「複業人材」をアドバイザーとして活用する取り組みも進んでいます。
これからは、都市機能を集約していくことも重要な取り組みです。中心市街地に医療・福祉・商業等の都市機能を集中させるなど、高齢者でも暮らしやすい街づくりが求められます。
また、公共施設の最適化も進める必要があります。AIを活用して施設の利用状況分析を行い、統廃合計画を策定している自治体も増えてきています。複数の機能を集約した複合施設の整備により、維持管理コストを削減しながら、利用者の利便性向上を目指しましょう。
▶監修・解説:北川哲也氏
補助金や許認可の手続きを専門とする行政書士事務所Link-Up代表 北川哲也氏。
2011年に29歳で開業し7年間個人事務所として中小企業向け行政書士サービスを展開。2018年春に株式会社Link-Upを立ち上げ、士業サービスでカバーしきれないコンサルティングや顧問サービスをスタート。公益社団法人茅ヶ崎青年会議所の2021年度理事長や認定NPO法人NPOサポートちがさき参画など活動多数。